不漁ジャム

しじみの香りの入浴剤が砂の中に埋もれている。

きみはぼくになれなくてそんでぼくは

両サイド田んぼの道をあるけば帰路。


ぼくは家に帰って、クーラーをつけた。電子音は鳴らなかった。母を呼んだ。母はこなかった。

ぼくはおかしを食べようと戸棚に手を伸ばした。おかしはなかった。テレビをみようと、リモコンをとった。リモコンはなかった。寒くなってきたのでクーラーを消した。クーラーはついていなかった。

おかしを買いに行こうと財布を持った。財布はなかった。畳に寝っころがった。畳はなかった。


ぼくの眼下にはひたすら深い青紫色が広がっていた。青紫色に触ろうと思って手を伸ばした。腕はなかった。縫い合わされた汚い切断面が見えた。視界が霞んだ。目はなかった。ぼくは窓の方へ歩いて行った。窓枠をまたいで外のほうへ落ちた。足はなかった。

ぼくは毎日こんなことを考える。なにもないぼくの体でベッドに横たわっているぼくはつまらない。ぼくはつまらない。毎日楽しいみんなはいいなと思う。ぼくはちがう。ぼくは楽しい。楽しい。ぼくはみんなが楽しい。みんなはぼくの楽しい。ちがうぼくの楽しいみんな。


窓の外は深い赤だった。







帰り死に体。